今回はエアフロメーターの作業事例をご紹介いたします。エアフロメーターとは、エンジンの吸気経路に設置されているセンサーのことを指します。エンジンECUはエアフロメーターのセンサーが読み取った値(エンジンの吸入空気量)をもとに、燃料噴射量を計算しインジェクターに対して指示を出しています。このセンサーにもホットワイヤー方式やフラップ方式などいくつかの種類があります。
さらに、エアフロ以外にも、MAPセンサー(Manifold Absolute Pressure Sensor)と呼ばれる吸気圧を計測するセンサーをもとに燃料噴射量を計算する方式もあります。外国車(イギリス・ドイツなど)ではエンジンECU内部にMAPセンサーが設置され吸気管からECUまでホースが繋がっているものもあり、稀にガソリンがECU内部まで入ってしまってるものもあるほどです。
車好きのお客様でもたまに耳にすることがあるかもしれない「Lジェトロ(=エアフロセンサー)」「Dジェトロ(=負圧センサー)」とはこの方式の呼び方のことを指しています。(ボッシュ社の登録商標)
説明が長くなってしまいました。いずれの方式でも、エンジン制御の要となるセンサーなので、故障するとたちまち不調に陥ってしまうことがあります。年数が経っているお車ではエアフロのはんだの劣化により不調となる症状はよくお聞きします。
今回は、BNR34 スカイラインGT-Rのエアフロメーターの作業をご依頼いただきましたので、作業内容をご紹介したいと思います。BNR34はエアフロメーターで燃料噴射量を制御しており、センサーはホットワイヤーと呼ばれる、熱線が冷まされた際の抵抗値の変化をもとに吸入空気量を測定する方式を採用しております。
インテークマニホールドに設置(=エンジンルーム内に設置)されていることから、ハウジングはシーリングによって完全に密閉されています。まずは、ハウジングのシーリングを切開し、開封します。すると、このような金属製のシールドがはんだにより固定されています。
シールドを撤去すると、基板部分が現れます。まずは、故障の原因となるはんだを全て「打ち替え」ます。はんだ自体も年数により劣化しておりますので、盛り直しではなく、一度全てのはんだを除去してから、新たにはんだづけを行います。画像からは判断できませんが、基板の構造が片面基板のため、クラックの影響を受けやすい構造となってしまいます。また、コネクターのターミナルへの接続部分も同様に振動によりクラックなどの劣化が起きやすいウィークポイントでもあります。
コネクターのターミナル部分のはんだを除去し、慎重に引き抜くとハウジングとセンサー部分を分離することができます。
ターミナルと基板の接続部分のはんだはソルダーウィック(吸い取り線)などでは完全に除去することが難しく、特殊なはんだを使用して端子やハウジングに負荷がかからないよう素早く取り外す必要があり、高度な技術と経験が要求される箇所でもあります。
画像ではわかりづらいですが、ブローバイなどによりオイルや汚れが堆積し汚れている状態でした(オイルが作業机に垂れてしまっていますね)。非常に繊細なセンサーですので、直接触れることがないよう注意しながら、専用溶剤で洗浄を行います。
センサーに付着したオイルや汚れを除去し、綺麗になりました。合わせて、ハウジングやスクリーンも徹底的に洗浄を実施いたしました。
センサー部分をハウジングへ戻し、コネクターのターミナルと基板をはんだづけにより接続します。
クラックなどの劣化を受けづらくし、耐久性を高めるため、はんだの量や熱管理に注意を払いつつ慎重に作業を行います。作業後は実体顕微鏡により検査を実施し、はんだの状態をチェックします。最終的に、はんだづけに用いるフラックスや堆積した汚れなども専用クリーナーで除去します。
仕上げとして基板に対して防湿絶縁コーティングを施工します。弊社ではコーティングの乾燥工程で温度プロファイルを管理しながら、焼き付け(熱を加える)工程を実施するため、より強度の高いコーティングが可能です。センサー部分にコーティングのミストが付着すると不調の原因となるため、徹底的にマスキングを行い、基板部分のみにコーティングを施工しました。
シールドも忘れずに装着します。一見簡単そうにも見えますが、金属製のため熱が逃げやすく、実は熱管理などの熟練の技術が要求されます。
最後にシーリングを施工し、防水処理を行います。乾燥に時間がかかることから、即日での作業が難しくなってしまいますのでご了承ください。
このように、単にはんだの打ち直しをするのではなく、「蓄積した修理の経験を元に、より耐久性を高める作業」を実施いたします。エアフロ不調でお困りの際は、お気軽にお問い合わせいただければ幸いです。
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